2012/11/22
「中部経済新聞」に投稿したコラムが、2012年11月21日付同紙オピニオン欄に掲載されました。紙面の関係でデータの掲示ができなかったことが残念ですが、主張ポイントは伝えることができていると思っています。
以下は、投稿した内容です。ご笑読ください。
領 域:中小企業
テーマ:社会的にアントレプレナーシップ教育の環境を整備しよう
(副題)鍵は2つの連携「小中高大連携」と「産学連携」
愛知学院大学 経営学部教授 鵜飼宏成
各国の起業活動を1999年からフォローする「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」(GEM:Global Entrepreneurship Monitor)調査がある。国の経済発展が起業活動と密接な関係があるという仮説に基づき実施されるこの調査で、日本の起業活動の水準は先進国の中では最も低いグループにあり続けている。
国際的にみて日本の起業活動が低水準にある事実は、日本という社会の行く末を悲観的に映す。なぜなら、「企業交替=社会的対流現象」が活発なほど、新しい技術・ノウハウ等を持って問題を解決する若い企業が増え、ダイナミックな経済発展の下支えとなると考えられているからだ。日本は企業の少産少死が特徴というが、雇用保蔵(必要以上の人員を企業が抱えている状態)が急速に増加している現状で、社会を刷新する役割を担い、雇用を創出する起業活動を今まで以上に深く考える時期にある。
2011年GEM調査より
成人(18-64歳)人口100人に対して、実際に起業準備中の人と起業後3年半未満の人の合計が何人であるかを示す「総合起業活動指数」で日本は5.2、米国の12.3、韓国の7.8と比べ低水準にある。また、「起業をキャリアの一つ」として考える指数では、日本26、米国65、韓国61と倍以上の違いがある(注:米国のみ2010年の値)。「新しいビジネスを始めるために必要な知識、能力、経験を持っているか」に関する指数でみても、日本14、米国56、韓国27と不足を指摘する者が非常に多い。
かかる状況下、私は、起業活動を促す重要な鍵が幼少期からの学習にあり、リスクを引き受け、変革を起こす人の基礎を築く「アントレプレナーシップ教育」(以下、アントレ教育)は教育機関への社会的要請であると確信している。しかし、アントレ教育は、「教育のカリキュラム」(教育する側により定義された教えるべき内容と教授法)以上に、「学習のカリキュラム」(学習する側の立場から見た学習環境のデザイン)が重要になるため、教育現場に大きな課題を突き付ける。
起業支援のプロである星野敏氏(日本ビジネス・インキュベーション協会会長)は、支援現場での豊富な経験に基づき日本型のアントレプレナーモデルを提唱している。このモデルは、成功した起業家と失敗に終わった起業家の比較分析から生まれたものであり、成否の鍵は、起業前の人格形成期と醸成期に事業性人格や事業感覚を体得していたかどうかにある。そして、テキストや資料を通じて知識を伝達される経営知識等は、これらの能力獲得があって初めて活かされることも示している。教育機関におけるアントレ教育のポイントもここにある。
愛知学院大学経営学部では、事業性人格と事業感覚の獲得を重視したアントレ教育プログラムを開発し起業家予備軍を育成して10年になる。中心的なプログラムが、学生によるバーチャルカンパニー(仮想企業)設立であり、社会問題を解決する新たな商品やビジネスモデルを企画し、協力企業とともに実現する。
未だに試行錯誤が続いているのだが、教育支援者の立場から2つの克服課題が見えてきた。まず、事業性人格、事業感覚を獲得する学びを小学校の段階から継続的に実施する必要性である。これには校種間連携でアントレ教育をデザインすることが欠かせない。次に、成長に応じて簡単なものから複雑なものまで、リスクを引き受ける起業疑似体験の場を企業・団体等とともに用意することである。
これからは、私たちが蓄積してきたノウハウをオープンにし、2種類の連携でアントレ教育を公共財としていきたいと考えている。協働に関心のある方々のお問い合わせを祈念している。